「現状では対策の取りようがない」。タクシー運転手が強盗犯に狙われる事件が続発し、大阪府のタクシー業界が頭を抱えている。運転席と後部座席との間の仕切り板や防犯カメラの設置などハード面の対策は、費用や乗客のプライバシーなどがネックとなって進まず、安全確保は「乗務員任せ」が実情なのだ。未解決の同種事件も記憶に新しく、夜の路上で客待ちする運転手たちは犯人の“影”におびえている。
仕切り板、関西は低調
全国乗用自動車連合会(東京都)によると、平成20年3月末の時点で、全国の約20万台のうち、約半数が仕切り板を設置。東京都で約78%、名古屋市で約74%-と主に都市部で割合が多い傾向にある。
しかし、大阪タクシー協会(大阪市中央区)加盟の157社(約1万4000台)のうち仕切り板の導入車両はわずか約16%。兵庫県でも約25%と、関西は全国平均と比べ極端に少ない。車内の防犯カメラの設置はさらに低調で、東京都で約600台あるが、大阪では「ほとんど走行していない」(同協会)という。
こうした現状について同協会常務理事の井田信雄さん(59)は「仕切り板は数十年前までほぼ全車に導入されていたが、乗客からクレームが多く撤廃する社が増えた。防犯カメラは1台当たりの設置代が約3万円と割高な上、乗客のプライバシーの問題もありなかなか導入が進まない」と話す。
防犯カメラ威力
それでも事件を受けて、同協会では来週中に事故防止委員会を招集し、各社に仕切り板の設置などを呼びかける方針だ。
大阪府内で唯一車内に防犯カメラを設置しているのが、駒姫タクシー(大阪市住之江区)。乗務員からの要望が多かったため、昨年12月にエンジンをかけると自動的に録画を始める防犯カメラを全180台に取り付けた。同社常務の藤原大さん(42)は「乗客にさりげなくカメラの設置を知らせることでトラブルを未然に防げた例もあり、抑止効果は期待できる」と強調。運転手からも「何か起きた際にカメラが付いていると安心」との声が多く、評判は上々という。
しかし、ハード面での対策を講じているタクシー会社はごくわずか。「乗車時にお客さんの顔をしっかりと見るように」「運転席後ろの座席に座る乗客には注意」などと、乗務員への注意喚起を促すだけの社が大半を占める。
自衛策にも限界
大阪市北区の路上で客待ちしていたタクシー運転手の木下俊司さん(60)は「年末以降、できるだけ流しは避け、会社からの配車に回るようにしている。売り上げがダウンしているだけに二重の苦しみを味わっている」と肩を落とす。
一方、自分なりの対策を講じる運転手も。個人タクシーの瀬良重信さん(61)は売上金などが一定金額以上になると、いったん家に置きに帰るようにしており、「不審な客を乗せたときは、精算時にシートベルトを外して、いつでも車外に逃げるように準備している」。別の運転手(61)は「これまで深夜中心に走っていたが、事件以降は午前中に出て早く帰るようにしている。タクシーは乗客を選べない分、最低限の自己防衛はしておきたい」と話した。




